薬膳の世界での体質
本草薬膳学院学院長 劉 海洋

薬膳の世界では人々の体質は家系、生活環境、習慣、食生活などにより体質も違うと考えている。
1. まず、生まれる時点で体質もほとんど決まっている。これは「先天の素因」とみられ、両親の健康状態によって子どもに良い体質を与えるかどうかがわかる。よく育て成長していく子供は良好な体質をもち、健康で人生を過ごすことができる。
2. 地理生活環境
地理環境の異なるにより気候、物産、食生活、日常生活習慣も違うので、体質に大きな影響を与える。≪黄帝内経素問≫の「異法方宜論篇」に“東方之域、天地之所初生也。魚塩之地、海浜傍水。其民食魚而嗜鹹。皆安其処、美其食。魚者使人熱中、塩者勝血。故其民皆黒色疏理。其病皆為癰瘍。其治宜?石。……西方者、金玉之域、沙石之処、天地之所収引也。其民陵居而多風、水土剛強。其民不衣而褐荐、其民華食而脂肥。故邪不能傷其形体。其病生于内。其治宜毒薬。……北方者、天地所閉蔵之域也。其地高、陵居、風寒氷冽。其民楽野処而乳食。蔵寒生満病。其治宜灸ぜつ?。……南方者、天地所長養。陽之所盛処也。其地下、水土弱、霧露之所聚也。其民嗜酸而食?。故其民皆致理而赤色。其病攣痺。其治宜微鍼。……中央者、其地平以湿、天地所以生万物也衆。其民食雑而不労。故其病多痿厥寒熱。其治宜導引按B。……”ここで、人々の生活環境、食生活習慣により、体質も違うべきである。
表1.生活環境、食生活及び体質の関係
方向
生活環境
食生活
体型・体質
病気
治療
東方
海浜 魚・塩 黒い;
キメが粗い
熱中・傷血・
癰瘍
?石
西方
砂漠・
鉱石海抜が高い風が
よく吹く住・
衣の追求が簡単
乳製品・
肉類
筋肉が肥厚で丈夫 外感病が少ない;
飲食所傷;
房室労倦
北方
気候が寒冷海抜が高い
野外生活が楽しい
乳製品 内臓の冷え 脹満 艾灸
南方
陽光が充足・
炎熱海抜が低い霧露集聚・
湿気が多い
酸味発酵した物 赤い;
キメが細かい
筋骨の痙攣;
痺れ
中央
海抜が平坦;潤い;
万物生長;
豊富 労働が少なくて
気血循環が良くない
痿痺・厥逆・
寒熱
運動按摩

  中国は、大陸の国として、東には海岸線が長い。あそこに住む人達が、魚をよく食べるし、塩分は他のところに住む人より、多く取っている原因で、皮膚が黒い、キメが粗いものである。
 西には、海抜が高くて、喜瑪拉雅山、崑崙山などの世界的に有名な山がたくさんあって、鉱石産地であるし、広い砂漠で、風がよく吹くので、あそこに住む人達が、乳製品と肉類をよく食べる原因で、人々は筋肉が肥厚で身体が丈夫である。
 北方には高原で海抜が高いし、気候が寒い所であるので、遊牧民族は乳製品をよく食べる。しかし、乳製品は性質が平性で涼性に近いので、そちらの人達の内臓が冷えてしまう。
 南方には陽光が充足で天気が炎熱であり、雨がよく降るので湿気が多い。南方は火に属し、酸味を欲しがり、このせいで、南の人達の皮膚が赤い、キメが細かい。
 中央には、海抜が平坦であり;気候が潤いので万物が生長しやすい。豊かな生活でここに住む人達が手足をあまり動かせず、だから四肢の気血循環が良くなくていひ痿痺、冷え、寒熱の病症が多いである。
3. 性別の素因
性別の異なるにより、生理特徴、解剖結構、体質など方面に差異が出てくる。男性は性格が陽気旺盛で身体が丈夫のため陽盛の体質が多いが、女性の場合は、月経、妊娠、出産などにより、常に血液が不足の状態になっているので血虚、気虚、陽虚の体質が多いものである。
4. 年齢の素因
「老壮不同気」人体の結構、働き、代謝などは、年齢により変化を起こす。だから、同じ人でも、年を取って行くと体質もかわるわけである。
5. 精神の素因
≪黄帝内経・素問≫「陰陽応象大論」に“怒傷肝”、“喜傷心”、“思傷脾”、“憂傷肺”、“恐傷腎”の異なるじょうちょ情緒と内臓の関係を述べている。感情の変化、長期のストレスをたまると内臓に傷をつけ、体質の変化も引き起こす。
6. 体質の分類
体質の分類は薬膳の世界では、陰陽、気血、津液(体内水分の総称)の虚実、盛衰により体質を良好な体質と不良な体質に分けている。
良好な体質:
体型が適中・体力は強壮/顔色がよく/反応がすばやい/食欲は正常/睡眠が良好/大便・小便が順調/舌色淡紅・舌辺円滑・舌下血管怒張なし・舌苔薄白。/脈象平緩。
不良な体質:
陰虚、陽虚、気虚、気鬱、血虚、痰湿、陽盛、血?などの種類がある。
下記の表を参照してください。

表2.各体質の特徴
体質
タイプ

顔色
好み
自覚症状
大小便
舌象
脈象
陰虚


午後、
ほほが
赤くなる、
微熱
冷たいもの のどが渇く、つばが少ない、寝汗、寝つきが悪い、睡眠が浅い、煩躁、手足が汗 大便乾燥
小便黄色・量少
舌紅少苔
細数
陽虚


顔色淡白、
唇淡
温かいもの 疲労、汗、手足の冷え、腰足の痛み、腹痛、生理痛 下痢しやすい、
頻尿、
尿の漏れ
舌淡胖
沈、
無力
血虚

顔色蒼白、
或は黄色、
唇淡白、
爪色が薄い
温かいもの 不眠、多夢、めまい、動悸、痺れる、食欲が細い、立ちくらみ 便秘しやすい 舌淡苔白

無力
気虚



顔色白、
むくみ
温かいもの 汗、疲れ、声が小さい、息きれ、健忘、食欲が少ない、腹脹 便秘しやすい、
頻尿、
尿の漏れ
舌淡苔白
虚弱
陽盛

顔色赤 冷たいもの
油濃いもの
動きが好き
声が高い、呼吸が粗い、汗、食欲が旺盛 大便臭い
小便熱赤
舌紅苔黄
 
血?



暗い、
皮膚青紫
  各種疼痛、腫塊、肌は乾燥、小腹硬満、脇痛、不正出血 大便の色が黒い 舌紫暗・?点
細渋
痰湿

顔色黄色、
むくみ唇淡白
油濃いもの 疲倦、眠い、身体が重たい・たるむ、痰、めまい、口中粘膩 軟便しやすい 舌体胖大、
苔滑膩
濡・
気鬱



顔色が暗い
或は黄色
  時々暴れる、時々鬱、ため息、胸悶、腹脹、食欲不振、不眠 正常・
便秘・
下痢しやすい
舌紅、
苔白

 ここで、不良な体質を陰虚、陽虚、気虚、血虚、痰湿、陽盛、血?、気欝の8種類に分けているが、実際に、多くの種類が存在している。それぞれの種類に対するどのような食生活すればよいか、薬膳に関心を寄せている。
7. 各種の体質に合わせて、下記のような食生活と養生を薦める。
表3.各体質の特徴、食生活、中薬、精神養生、運動、環境養生の関係

食生活
中 薬
精神養生
運 動
環境養生
おすすめ
注意

養陰潜陽:
胡麻、糯米、
蜂蜜、
乳製品、
豆腐、野菜、
果物、魚類、
燕の巣、
銀耳、
ムール貝、
亀、蟹、鴨
葱、生姜、
大蒜、韮、
薤白、
唐辛子、
鶏肉、羊肉
滋陰清熱、
滋養肝腎:
女貞子、黄精、
山茱萸、玉竹、
五味子、玄参、
旱蓮草、桑椹、
亀板、麦冬、
天門冬、枸杞子
肺陰虚:百合固金湯
心陰虚:天王補心丸
脾陰虚:慎柔養眞湯
腎陰虚:六味丸
肝陰虚:一貫煎
読書、競争性活動を抑える性生活を抑える 肝腎を保養穏やかな活動:
太極拳、
八段錦など
住い南向き、
安静、
夏秋に注意

壮陽:羊肉、鹿肉、鶏肉、
えび、
なまこ、
冬虫夏草夏日三伏各服附子粥・羊肉附子粥一回
身体を
冷やすもの:苦瓜、冬瓜、
セロリ、
豆腐、梨、
りんご、
西瓜、緑茶、
生もの
補陽、?寒、
温養肝腎:鹿茸、
海狗腎、蛤?、
冬虫夏草、巴戟天、淫羊?、仙茅、
胡桃、補骨脂、
杜仲、続断、兎糸子
金匱腎気丸、右帰丸、済生腎気丸、全鹿丸、桂枝甘草湯、理中丸
ストレスをたまらないようにする 日光浴、
空気浴、
体操、
気功
 
保温
春夏補陽
日光浴
テント禁止
  

桑椹、ライチ、松の実、
黒木耳、
ほうれん草、ニンジン、豚肉、羊肉、
レーバー、スッポン、ナマコ、平魚(マナガツオ)
当帰補血湯、
四物湯、
帰脾湯、
八珍湯、
十全大補湯、
人参養榮湯
過労しない音楽・漫才 劇を鑑賞

粳米、糯米、粟、黄米、
大麦、山薬、ジャガイモ、椎茸、ニンジン、大棗、豆腐、鶏肉、鵝肉、鶉、兔肉、
牛肉、青魚、?魚
消化にくいもの:生もの、脂濃いもの、大根、ごぼう 四君子湯、
参苓白朮散、
補肺湯、
腎気丸、
金匱薯蕷丸
我慢しない・ストレスをたまらないようにする 気功

果物:バナナ、西瓜、柿、
野菜:苦瓜、トマト、蓮根
辛いもの:
唐辛子、生姜、葱、牛肉、鶏肉、羊肉、鹿肉、酒
菊花、
苦丁茶麻子仁丸、
潤腸丸、麦門冬湯、丹梔消遥散
怒るのを抑る性格の訓練 運動:
水泳、走る、球類、武術
通風がよい・涼しい場所

?
活血化?:
桃仁、チンゲン菜、慈姑、黒大豆、酒、酢、山?粥、ピーナツ粥
身体を冷やすもの:苦瓜、冬瓜、セロリ、豆腐、梨、りんご、西瓜、緑茶、生もの 活血養血:
地黄、丹参、川?、当帰、五加皮、地楡、続断、?蔚子
鬱しないストレース解消 循環を
よくする:
舞踏、
太極拳、
八段錦、
按摩
保温
春夏補陽
日光浴

湿
健脾利湿、
化痰?湿:
大根、扁豆、
黒くわい、
玉葱、
キャベツ、
のり、
くらげ、
枇杷、銀杏、大棗、?苡仁、小豆、蚕豆
油膩もの、
酒、
食べ過ぎない
二陳湯、
六君子湯、
香砂六君子湯、
金匱腎気丸
我慢しない・ストレスをたまらないようにする 運動:
散歩、
球類、
マラソン、
武術、
舞踏気功
湿気に注意、住いが乾燥するところ

少量の酒、
行気:仏手、陳皮、
オレンジ皮、
そば、高梁、韮、茴香菜、大蒜、刀豆、ソーセージ
消化しにくいもの 疏肝理気・活血化?:香附、烏薬、川楝子、小茴香、青皮、欝金 社会活動を積極な態度で参加、漫才、喜劇、交響楽、明るい性格を育つ 運動:
旅行、
気功
保温
春夏補陽
日光浴

 献立を作る時に、それぞれの体質をよく理解し、食生活の大原則をしょうあく掌握し、個人差、生活環境などの具体的な状況によって臨機応変に運用して行く必要があると考えている。